ひび割れ女子高生

女子校で凝固し粉砕され霧散しかけています

ふっと・いん・ざ・ねこ

陽光が眩しい。 11月にもなると空は澄み、光は冷たくパリッと乾燥した空気の中を一直線に落ちてくる。混じり気のない光と空気に晒されると、身や心さえも洗われるように感じられる。私を渋らせるものは何もない。一年で一番好きな季節。 そんな日は、機嫌良…

手触り

時計の秒針が刻むリズムにあわせて、爪の先で机の表面を叩く。カッ、カッ、カッ…… 私はどうして机を叩いているんだろう……いや、理由を考えてはいけない、とにかく叩いていればいい。なにかあるのか、なにも無いのか、それが一番の問題だ。なにかあるのならそ…

日常蠅

子象の体当たりで粉々になりそうな韓国料理店を見つける。表には、かなり黒ずんだ黄色の看板。そこに、青と赤で文字が色々書いてある。こういう店は、大抵、すごく美味しいかすごく美味しくないかのどちらかだ。 入った途端、太ったハエが出迎えてくれる。や…

台風のキス

街を歩く。煙草の煙みたいな雲から僅かに覗く太陽が、心の内を隠しきれない詐欺師がギラつかせる目に見える。何故だろう。私がいつも詐欺紛いの方法で日付を自分の前から後ろへと送り続けているからだろうか。 歩いていたら、人混みの中、こちらに向かって歩…

向こう側

この病室ではなぜ空が見えないんだろう、としばらく考えて、私はその日の空の色を気にする人らしいと気がつく。ベッド横の閉まりきったブラインド、そこから僅かに漏れる光から、水樹奈々さんの声みたいな青と、それを覆う重いグレーの雲を想像してみる。 視…

白いシーツ、白い壁

昨日と同じ1日だった。終わり。 いや、観察力と想像力の欠如のせい。もう一度よく思い出そう。1日の全てに正確に言葉をあてて、微細な構造を炙り出そう。 朝起きる。布団の中で看護師さんが採血に来るのを待つけれど、看護師さんが来ない。暫く経って漸く…

普遍的つらさ

今日もベッドで血を抜かれる。特に事件も起きない変わらない日。食事のメニューは1週間前と同じ。ベッドの左にある窓からは、連日近くで行われている音楽イベントの騒ぎが聞こえている。女性シンガーの高い声は、幾らかの空気とガラス窓を通すと、蚊が飛ぶ…

ちらばり

暇だった。だから、スーパーに行って炭酸水を買って飲んだ。乾いた味がした。 それでもまだ暇だった。だから、家でいくつか映画を見た。内容は殆ど忘れた。腐った親の死体に化粧をする子どもの映像が良かった。他のもまあ良かった気はする。 映画を見ていた…

旧友

10年ぶりの友人に会った。私が「毎日がつらい」と溢すと、焼肉を奢ってくれることになった。今後は積極的に毎日のつらさを周囲に主張していこうと思った。 距離が近すぎた人間に久々に会うと、何を話していいかわからなくなる。これは私の会話能力の低さのせ…

病院暮らし

今日も一日、血を抜かれて観察される。意外にも時が経つのは早く、明日には前半の検査がひと通り終わって一時帰宅だ。そう思うと途端に、いま身の回りにあるなにかに価値を認めたくなる。そこで、同室の人達とコミュニケーションをとってみる。 「もうすぐご…

見えない場所

労働。私の左腕にチューブが刺さっている。1時間おきに、看護師がそこから血を採る。 「6番さん、15秒前……3、2、1お願いします」 私が意識していないうちに勝手に作られた血は、私が意識していないうちに誰かに採られて、私が意識していないうちにどこかで検…

内側の日

このところ労働続きでポエムが足りない。だからサティの詩集を読もうとした。だけどうまく読めなかった。代わりに他の本をいくつか開いてみたけれど、相変わらず言葉が入ってこない。でも、読んだことのある本なら、過去にその本を読んだ時に形成したイメー…

鏡の中と外

鏡に映る自分を観察していると、安心する。別に、私が特別美人だからとか、そういう訳じゃない。ただ、鏡の前で色々な表情を作って、鏡の中の自分が同じように動くことを確認していると、安心する。 鏡を見ながら化粧をしていると、鏡の中の自分の顔が、他人…

隙間

夕食のとき、自分の将来について両親と話した。「あなた達が稼いだお金で生きていく、お金がなくなったら自殺する」とは言えず、適当な大学に行って適当なところに就職して社会人3年目くらいにそこそこの男と結婚する、なんていう、頭を一回転すらさせていな…

労働

労働をした。やったことは、姿勢良く立って陽の光を浴び、車が通る時と、人に質問をされた時に声を出す、ただそれだけ。私の持ち場は、周りより少し高くなったところにある、大きな案内地図の横。そのせいで、ただ立っているだけなのに、私の眼下に人が集ま…

夜ごはん

学校はもう夏季休業に入ってしまったし、部活も休み。今日やったことといえば、自分の体重が減りすぎていないか確認したことと、自分の汗を布団に染み込ませたことくらい。 こういう日は、無性に素麺が食べたくなる。素麺は、私に、時計の短針と秒針を同時に…

滑らかさ

ブログを始めようと思った。だけど、私にはまだ、語ることができる言葉がない。それがブログであることを示すための文章というものを、私はまだ知らない。だからうまく書けない。個人的な日記ならば、書き始めて6年くらいになる。それは、「毎日文章を書けば…