ひび割れ女子高生

女子校で凝固し粉砕され霧散しかけています

見えない場所

労働。私の左腕にチューブが刺さっている。1時間おきに、看護師がそこから血を採る。

「6番さん、15秒前……3、2、1お願いします」

私が意識していないうちに勝手に作られた血は、私が意識していないうちに誰かに採られて、私が意識していないうちにどこかで検査を受ける。それでお金になる。私が意識して行う労働は、太陽が出ているときに眠らないこと、カフェインを摂取しないこと、血を採られるときに腕を出すこと、看護師が30秒数えるのを聞いて水を飲むこと、このくらい。これだけ意識して10日間過ごせば、真っ当な人間が10日間朝から晩まで働いた分のお金が貰えるのだから、悪くない。一昨日までの日々と比較して、労働の大幅な外部化に成功している。

私の労働は、私の知らないところで、勝手に行われる。ならば、私が対価を貰い忘れている労働もありそうだ、きっちり徴収しておかないといけない。あなたが採血できる理由?私の骨髄が血を作っているからです。私自身、今まで意識したことはなかったけれど、どうやら私のおかげみたいですよ。今、クーラーからの涼風があなたの頬を撫でましたね、実はそれも私の骨髄が血を作っているおかげなんです、ええ、はい。あら、そっちではUSBメモリがうまく刺さったんですか、おめでとう、私の骨髄のおかげですね。うれしさの理由、今日あなたが笑顔になった理由、たとえ笑顔にならなくてもなんだかいいなと感じたその全ての理由は、私の骨髄の造血作用にあります。だからみなさん、私にお金を払ってくださいね。

労働に限らず、面倒なことはどんどん外部化していこう。食べるとか、寝るとか、考えるとか、生きるとか、死ぬとか。そういうことも全部全部、私の意識の外で勝手にやればいい。私はただ上澄みだけ貰う、それがいい。