手触り
時計の秒針が刻むリズムにあわせて、爪の先で机の表面を叩く。カッ、カッ、カッ……
私はどうして机を叩いているんだろう……いや、理由を考えてはいけない、とにかく叩いていればいい。なにかあるのか、なにも無いのか、それが一番の問題だ。なにかあるのならそれでいい。深遠な物思いは敵だ。
カッ、カッ、カッ……机を叩く音が脳を揺らす。考えごとを削る音。
机を叩くときに大切なことは、決してリズムを乱さないことだ。叩く強さを変えず、正確に同じ場所を叩き続けることだ。羽を動かし続けていれば、地面に落ちて死ぬこともないだろう。カッ、カッ、カッ……
長い間、無と有の往復を続けていた。いつの間にか、視界が曇った。
もはや全てが鈍い。ビニール袋越し。
毎日が自殺だ。生きないために自殺する人がいれば、生きるために自殺する人もいる。でも、結局、皆自殺する。皆自殺している。そういうシステム。たとえ何処に逃げたって、そのシステムは巧妙に網を張り巡らせて人々を待ち構えている。オプションは自殺の速度くらい。
虚構、不毛、無意味……意味とは目的だと誰かが言った。ならば目的の出処が知りたい。私が欲しかったのは麻薬ではない。ぼんやりとした鮮烈さではなく、はっきりとした落ち着きが欲しい。なにか手触りのあるものが欲しい。例えば、形状とか、温度とか、中身とか……
……地面。地面が欲しい。地面の上で眠りたい。
夜空に散る星に気がつくために必要なものは、煌々と輝くオフィス街ではない。料理が辛すぎるときにするべきことは、唐辛子を増やすことではない。空しさを集めると空しい。こんなことは当たり前だ、そう言えるようになりたい。