ひび割れ女子高生

女子校で凝固し粉砕され霧散しかけています

向こう側

この病室ではなぜ空が見えないんだろう、としばらく考えて、私はその日の空の色を気にする人らしいと気がつく。ベッド横の閉まりきったブラインド、そこから僅かに漏れる光から、水樹奈々さんの声みたいな青と、それを覆う重いグレーの雲を想像してみる。

視界を空で埋めてみたい。だけど、ブラインドの操作の仕方がわからない。無理に動かそうとして壊してしまったらどうしよう。そもそも、勝手に操作してしまって構わないものなんだろうか。一瞬、コールボタンに目をやる。その途端、そんな質問のためだけに呼ばれる看護師さんの気持ちが頭をよぎって、ブラインドに目を戻す。ブラインドは、明らかに私を挑発している。ときたま、クーラーの風を僅かに受け、漏れる光線を震わせる。それと同時に、私の首筋をも震わせる。そして、私の口の端から力を抜き、開いた口から空気を抜いていく。

 

どれだけ空気を抜かれただろうか。私は徐々に、自分の中に芽生えてしまった、ブラインドを上げたいという欲求に疑問を感じ始めた。だって、閉まりきっているほうが自然だ。この景色は完成されている。私は手を加えてはいけない。その必要はない。一度夢見てしまったものは秘匿され続けなければならない。もし手に入ってしまったら最後、私は何もかも……

 

「どうしたんですか?壁ばかり見て。あぁ、開けてあげますよ」

あっ、ダメ……。言う間もなしに、スルスルと上がっていくブラインド。そういえばもう採血の時間だった。あれだけ私の中をぐるぐる回った青とグレーが、ワインのコルクを抜く音を立てて、私の目に飛び込んでくる。

空はたしかに綺麗だった。そして、きっと何度も見たことのある、至って普通の空だった。どうしてこんなことに心を奪われていたんだろう、そもそも、自分に空の色を気にする習慣があることにすら今日気がついたような私が。急に馬鹿馬鹿しくなる。きっと全部、自分の家の窓にカーテンをつけていないせいだ。カーテンを買おう。毎日カーテンの開け閉めを繰り返せば、そのうち、釣り合いというものがわかってくるだろう。利用や操作という行為の平凡さに、気がつけるだろう。