ひび割れ女子高生

女子校で凝固し粉砕され霧散しかけています

旧友

 

10年ぶりの友人に会った。私が「毎日がつらい」と溢すと、焼肉を奢ってくれることになった。今後は積極的に毎日のつらさを周囲に主張していこうと思った。

距離が近すぎた人間に久々に会うと、何を話していいかわからなくなる。これは私の会話能力の低さのせい……だけではない、と思う。以前は、彼女と私は共に似た経験の中にいたお陰で、経験直接の叙述は必要なく、専ら、感覚の分割と再統合に集中していた。そうやって繋がっていた。でも今はそうはいかない。彼女が身につけている、着慣れた風のワンピース。足に馴染んだ靴。まるでいつもそうしているかのような、髪を搔き上げる仕草。彼女の融和する世界全てが、最早私にとって新しい。

こういうとき、焼肉はいい。肉を網に並べる作業と、肉が焼けていくパチパチという音は、開いた距離を埋めていく。額に汗が滲む頃には、訥々と会話が始まる。

彼女は今、レジャー施設で労働をしているといった。元は教員になるつもりで大学に行ったけれど、教員になる前に他の労働もしておくべきだと考えてのことらしい。殊勝なことだ。その彼女が、私に対して頻りに、教員になるようにと薦めてきた。教祖になることなら何度か考えたことがある、と返したら、真面目に考えてるんだから、とムッとされた。私だって真面目に教祖という可能性を考えていたのだけれど、このことは結局理解されなかった。

 

店を出た後は、しばらく歩いてから、彼女と別れた。私に背を向けた彼女の足音はやけに大きく響いたけれど、その音ももう消えた。硝子張りの夜、8月にしては嘘みたいに冷たい風が身体を撫でる。この風の中では、さっきまで彼女と一緒にいたことすらも嘘のように思えてくる。