ひび割れ女子高生

女子校で凝固し粉砕され霧散しかけています

病院暮らし

今日も一日、血を抜かれて観察される。意外にも時が経つのは早く、明日には前半の検査がひと通り終わって一時帰宅だ。そう思うと途端に、いま身の回りにあるなにかに価値を認めたくなる。そこで、同室の人達とコミュニケーションをとってみる。

 

「もうすぐご飯の時間ですね」

「……あぁ、やっとスよ、つか、飯足りなくないスか?もーぅ腹減って仕方なくて。……でも、あまり美味しくないんすよね」

「そうですね。しかも、前半5日と後半5日は同じメニューらしいですよ、嫌になってしまいますね」

「マジすか、最悪。水しか飲めないし、風呂には浸かれないし……もうやってられっか、って感じスね……」

 

初対面との相手とのコミュニケーションではまず共感と同意から。誰が設けたわけでもないその規則が、突如として現れる。そしてなぜか皆が律儀にその規則を守っているせいで、話は自然と暗い方向に流れる。皆の顔に形を変えず張り付き続ける愛想笑いは、発せられる言葉が本心でないことを語る。完全な虚構のコミュニケーション。教養と良識、もしくは野心を備えた人間なら、ここから全力で脳に血を回してウィットに富んだ返しで突破口を穿とう、なんて目論むのだろう。でも、私にはそんなものは無い。周りの皆にも無い。ただ、あれはあまりにも無計画なコミュニケーションの開始だった、そのことを延々と証明していくかのように、空虚な領域の言語化で、空虚な時を埋めていく。しかしそれも悪くない、その空気がある。私たち皆が、喪失が常に纏う虚飾に、許容されたがっている。