ひび割れ女子高生

女子校で凝固し粉砕され霧散しかけています

白いシーツ、白い壁

昨日と同じ1日だった。終わり。

 

いや、観察力と想像力の欠如のせい。もう一度よく思い出そう。1日の全てに正確に言葉をあてて、微細な構造を炙り出そう。

 

朝起きる。布団の中で看護師さんが採血に来るのを待つけれど、看護師さんが来ない。暫く経って漸く、自分が病院ではなく家にいることに気がつく。先輩から「どした?今日部活休み?」と電話がくる。考えるのをやめて急いで家を出る。何故って、もうすぐ吹奏楽コンクールの支部大会だからだ。

学校に着くと、既に音楽室から合奏練習の音が漏れている。情けなさに打ちひしがれながら、皆が奏でる音から音楽室内のピリピリ度を推定。音楽室の扉を開けるのはどのタイミングがいいだろうか、扉を開けたらまずなんて言えばいいだろうか、考えながら廊下を走り、楽器を壁にぶつけてへこませた。

 

ここまで全て正確。となると、今日書くべき日記はこうなる。

 

今日は珍しく感情が大きく動いた。同じ部活でトロンボーンを吹いている先輩のせい。

彼女は、合奏練習のとき、指揮者から何度も同じ注意を受けて、皆の前でひとり、楽譜の同じ部分を繰り返し吹かされていた。注意の回数が増す度、彼女の身体の震えは大きくなって、演奏はより酷くなった。完全にアガりきっている、皆がそう思い始めた頃、いよいよ指揮者は「ヘタクソ、もういい」と匙を投げ、彼女は悔しそうに目に涙を浮かべて口の端を噛んだ。そしてまさにその瞬間、それを見ていた私は、自分の身体が、何者かによって足先から頭に向かって黒い糸で編み上げられていくのを感じたのだった。

彼女が限界まで堪えた涙の落ちる瞬間が見たい、そう思った。可哀想とは思わなかった。自分の手でゆっくりと握り潰してやりたいと思った。でも、今こうやって書いてみると、やっぱり、合奏中の私は少しおかしかったんじゃないかという気がしてくる。

どうしてこんなことを思ってしまったんだろう。なにも彼女のことが嫌いだった訳じゃない、むしろ、好きだった。私とは担当楽器が違うせいで、会話すらまともにしたことがなかったけれど、でも、そのおかげか、私はいつだって安心して、自分と彼女の間の数枚の壁越しに彼女を眺めていた。彼女の、抑揚のない喋り方や、楽器を組み立てている時に見せる無表情の中の愛情は、私の詮索欲を煽りこそしたけれど、握り潰したいなんて気持ちを沸かせることは一度もなかった。

私は昔から男の子には興味がなかったけれど、まさか同性に対してこんな感情をむけてしまうなんて日がくるとは思ってもみなかった。多分、今日の出来事は、3日後の私の頭にもこびりついている。

 

採血はなかった。